「マインドフルネス」という瞑想に参加しました H29.12 寺岡産業医講話
組織があるところストレスあり。仕事上のストレスからうつ病で亡くなる人、休業する人は後を絶ちません。この社会的な損失を何とかしようと昨年から始まったのがストレスチェックテストです。対象企業の85%以上が参加し制度としては順調な滑り出しといえますが、問題ありとされた方の0.6%しか産業医に相談されようとしないなど、まだまだ問題点はありそうです。これで業務改善の方向へ動いてくれればよいことですが・・・・。
ところで世界ではこれとは違った方法でストレスを低減しようと、大きな動きがアメリカ、ヨーロッパ中心に起こっています。どんなことをするのかというと、日本人にもなじみの深い「瞑想」なのです。「マインドフルネス」と名づけられたこの瞑想法、阪大でおこなわれたセミナーに参加して来ました。日本のAI研究の第一人者や、教授、学識経験者と大学院生などを対象におこなわれた格調高いセミナーでした。感想も交えながらご披露させていただきます。
瞑想のもともとの起源はインド仏教です。日本ではその一派が「禅宗」として伝わっています。宗教色を出来るだけ除いて「瞑想」だけを取り入れ、万人が参加できるよう欧米で工夫されたのが「マインドフルネス」というわけです。大まかなことだけを言うと、静かに目を閉じ、ゆっくり呼吸をし続けるのです。全身の力を抜き自分の呼吸に集中します。雑念が湧いてきたときには深入りせず離れてゆきます。そしてまた呼吸に集中します。これを延々繰り返すのです。時間は様々ですが、その間、五感を研ぎ澄まし、身体と自分の周りの現象に感覚を集中します。やってみると確かに脳が洗われたような感じがあり、視野が広くなる印象があります。まわりの現象がフレッシュに感じられます。いろんなバリエーションがあって、立ってする瞑想、歩きながらの瞑想などもあるのです。時間も様々です。この辺が日本の座禅とちがって、西洋らしい分かりやすさと広がりを感じます。
最近、この瞑想には医学的な効果があることが分かって来ました。人間は厳しいストレスをうけると副腎からコーチゾルというホルモン(いわゆるステロイド)を分泌させて炎症やストレスを緩和する重要な働きがありますが、これがいつまでも出続けると脳の海馬という記憶をつかさどる部分の神経線維を萎縮させてしまいます。海馬の萎縮の最たるものがアルツハイマー病です。その近くに扁桃体という塊がありますが、ここは恐怖、怒り、不安を感じる中枢で、うつ病の人では扁桃体の肥大が特徴です。8週間の瞑想プログラムでうつ病の30%の人が治るそうですが、ハーバード大のラザード教授は瞑想でうつ病が改善したとき、海馬の神経線維が増え、扁桃体が小さくなることを発見しました。瞑想は脳の構造さえ変えることが出来るのです。ひょっとすると認知症の予防にも効果があるかも知れません。そのほかにも肥満、ガン、動脈硬化と関係の深い、慢性炎症を引き起こすR1PK2遺伝子の抑制をすることも分かってきて、さまざまな病気を予防する可能性がありそうだということも分かって来ました。
このような効果に着目し「マインドフルネス」を会社の行事として実践している企業が欧米ではどんどん増えています。フォード、グーグルなど名だたる企業でも、学校、幼稚園、刑務所でもおこなわれており、タイガーウッズ、マイケル・ジョーダン、テニスのジョコビッチら超一流のアスリートたちも「マインドフルネス」に取り組んでいるそうです。UCL A、ハーバード大学など全米の大学では専門講座が設けられていて、「マインドフルネス」の研究実践がおこなわれています。主要な都市にはマインドフルネスのためのいくつもの
協会が並存しています。こうなるともう社会現象といえます。
思えばアップルのスティーブ・ジョブスは禅に傾倒し、“Stay foolish”と言いました。日本人には「無になれ。」と理解できます。マイクロソフトのビルゲイツも禅の作務衣で働いているそうです。私をマインドフルネスの合宿に誘ってくれた親友もUCLAを出てアメリカで成功したプログラマーの一人です。
このよう動きは単なるファッションではなく深い意義があるのだと思います。「マインドフルネス」は緻密な作業を長時間求められる彼らに①安らぎをもたらし、②集中力を高めてくれる効果が科学的に明らかだから、こんなに受け入れられているのです。ようやく日本でもYahooなど、「マインドフルネス」を取り入れるところが現れはじめ、企業の幹部研修にも採用され始めたようですが、今後どんどん普及していきそうな勢いです。
時代の最先端の人たちが座禅・瞑想をしている姿は、洋の東西、科学と宗教、物と心の融合を見るようで、未来的でありcoolな情景ですね。